詩人の谷川俊太郎さんが今月13日、92歳で他界された。これまで何度か、本欄でも氏の作品について書いてきた◆氏の遺した仕事は実に幅広い。多くの人がよく知っているものは、小学校の国語教科書にも掲載されたレオ・レオニ作の絵本「スイミー」の翻訳。そのほか多くの絵本がある。「かっきくけっこ」(くもん出版)など、言葉に親しみ始めたばかりの子どもに、言葉以前の音の楽しさをプレゼントする絵本もある◆御坊ライオンズクラブ主催の日高地方子ども暗唱大会で聞いた「くり返す」は、「あやまちをくり返すことができる/後悔をくり返すことができる/だが人の命をくり返すことはできない」「けれどくり返さなければならない/人の命は大事だとくり返さねばならない」という叫ぶような小学生の暗唱に乗せて、力を持った詩人の言葉は心の深い部分を揺さぶってくれた◆教科書に載っている「朝のリレー」は「カムチャツカの若者が きりんの夢をみているとき/メキシコの娘は朝もやの中でバスを待っている」と始まる。「ぼくらは朝をリレーするのだ/経度から経度へと/そうしていわば交替で地球を守る」。世界と時代とを、詩人の大きな視野は包んでいる◆先日の市民教養講座講師を務めた俳優の高橋英樹さんの講演で、特に一つの言葉が心に残った。趣味で絵を描くようになってから美術館をよく訪れるようになったという話で、「名画とはきれいな絵、うまい絵じゃない。力を、エネルギーをくれる絵」だという。真理だと思った◆訃報を受けてあらためて多くの詩に触れ、力をもらったような気がする。心に得た力は外へ発信し、どこかへリレーしていくことができるかもしれない。 (里)