役所広司主演で映画化され御坊でも公開中の「八犬伝」原作をご紹介します。
物語 時は中世、安房国の城主里見義実の娘伏姫は父のうかつな約束のため巨大な妖犬八房と山にこもり、不思議な仏縁でこの世に「八犬士」を生み出す。彼等は全国各地でそれぞれ生まれ、里見家との縁を示す珠を持つ。
現実の世界。江戸で人気の戯作家滝沢馬琴は友人の天才画家葛飾北斎に、書こうとしている読本のあらすじを話して聞かせる。北斎は壮大さと発想の奇抜さにうなり、すらすらと今きいた場面をその場で描いて見せる。北斎の快腕は八房や伏姫の姿を生き生きと紙の上に出現させ、馬琴は「ううむ…」とうなる。
「南総里見八犬伝」の進行を聞くため数年ごとに北斎は滝沢家を訪れ、馬琴は微に入り細に穿って、八犬士たちが運命に導かれて一人また一人と集まっていく壮大な物語絵巻を語る。しかし物語の人気と裏腹に馬琴と滝沢家は試練に襲われ続ける…。
NHK人形劇「新八犬伝」を毎日楽しみに見ていた小1の時からこの物語に心ひかれ、大人になって原作を探し大阪、京都、神戸の書店を巡り、いろんな現代語訳や関連本を山と買い集めました。その数ある作品群で、私の中でひと際抜きん出て燦然と輝くのが本書。芳流閣の決闘等、数々の名場面が伝奇小説の名手風太郎氏の手によって生き生きとよみがえるのみならず、作者馬琴と天才北斎が語らう「実」の世界の30年近くに及ぶ変遷もまた、時代と個との凄絶な格闘の趣すら感じさせ、最終章「虚実冥合」まで読む者を惹きつけてやみません。早く映画を観たくてうずうずしています。 (里)