御坊市で開かれたシンポジウムで話す谷川さん(日高新報1999年4月2日付より)
有名な「スイミー」の翻訳も(好学社の絵本より)

 今月13日に92歳で亡くなった詩人の谷川俊太郎さんは、25年前に御坊市で開かれた読み聞かせ団体主催のシンポジウムに参加した。地元の人たちと和やかに語り合い、朗読も披露。当時を知る人たちからは「とても気さくな方でした」「温かさが伝わってきました」などと人柄を偲ぶ声が聞かれる。

 御坊市の子ども文庫ボランティア、エプロンネットワークが主催し、御坊市民文化会館小ホールで開催。谷川さんの意向で「講演会ではなく、地元の人々と語り合う場にしたい」とシンポジウムという形になり、約350人が参加した。小学校の国語教科書に使われた谷川さん訳のレオ・レオニ作「スイミー」はファンも多く、谷川さんは翻訳という仕事について「一つひとつの言葉の心を日本語に直すのが難しい」などと語った。自作の詩を朗読する場面もあり、来場者は大喜びしていた。エプロンネットワークはこの場での「わらべうたなど、共通語よりその地に伝わっている言葉で読む方がいい」などの言葉に刺激を受け、地元の昔話を方言で書いた本を湯川、藤田、野口、名田、塩屋と地域ごとに発行した。

 塩屋地区を担当した楠本文郎さん(70)は当時を振り返り、「開催前、多くの人に『すごい人がくるね』と声をかけてもらったのを覚えています。私は『スイミー』が、なぜあんなに子どもたちが何度も読むのかと不思議だったのですが、あの中にあるリズムが子どもの心を惹きつけることなど、お話をお聞きして得心がいきました。本当に温かく柔らかな語り口調で、生きていくということの温かさの伝わってくるお話でした」、湯川地区を担当した黒田有希子さん(69)は「こんなすごい人が御坊へ来てくれるなんて、と感激しました。すごい人だということを感じさせない、とても気さくな雰囲気の方でした」と懐かしんでいる。

題材としても人気 御坊LC暗唱大会

 御坊ライオンズクラブ主催の日高地方子ども暗唱大会でも谷川さんの詩はよく題材として取り上げられ、今年2月の大会では川原河小(現美山小)4~6年生が「生きる」を暗唱した。
 指導した山本詩子さん(65)は、「谷川さんには愉快な詩も多いのですが、何気ない日常から戦争までさまざまな『生きる』ことがうたわれたこの詩を選び、子どもたちが力を込めて暗唱してくれました。全国の子どもたちは谷川さんに育ててもらったところがあるような気がします。92歳、まだまだ長く活躍していただきたかったですね」と話している。