芸術の秋におすすめしたい1冊、加藤シゲアキの「なれのはて」を紹介します。この本は1枚の絵画の謎を追うミステリー小説です。主人公のテレビ局員の守谷は同僚の吾妻から祖母の遺品である絵を使って展覧会を企画したいと相談され、絵を描いた謎の画家の正体を探り始める。手掛かりは絵の裏に書かれた「イサム・イノマタ」のサインのみ。謎を解き明かしていくと秋田のある一族の暗い過去の秘密が次々と浮かび上がってくる…。
物語の中で時代は大正から現代へと変遷し、戦争、芸術、ジャーナリズムなどいくつもの題材を詰め込んだとても読み応えのある作品です。登場人物が多く、少々複雑に感じる部分もありますが、1枚の絵画をきっかけにして様々な人間関係が少しずつ解き明かされていく過程は面白く、終盤に向かうにつれどんどん物語に引き込まれていきます。終戦間近の空襲の惨禍や戦争孤児、親子の確執など暗く重たい内容が続く場面もありますが、物語の最後は感動的で読後は爽快感がありました。タイトルになっている「なれのはて」という言葉にも様々な意味が込められていると感じました。「なれのはて」とは一般的には落ちぶれていった結果の有様、没落して最終的に行き着いた状況、などマイナスな意味の言葉として使われますが、本作を読み「なれのはて」にあるものは暗く絶望的なものだけではないと感じました。
著者はアイドルグループNEWSのメンバーで、アイドルが書いた小説だという色眼鏡で見がちですが、この作品はそういった色眼鏡なしで読んでほしい1冊です。(彩)