10月27日から11月9日までの2週間は読書週間。読書の推進運動としてのイベントがこの時期よく行われるが、実際、読書という個人的な行為を意図的に広く普及させることはどの程度まで可能なのだろうか◆筆者は本好きの父が怪談話や「少年少女落語全集」、江戸川乱歩の「少年探偵団シリーズ」など、名作文学というよりは理屈抜きに面白い本を身近に置いてくれたおかげで物心ついた頃から「読む楽しさ」を実感しながら育つことができた。忘れられないのは小5の時、ポプラ社の名作を集めた「アイドルブックス」シリーズの一冊、下村湖人著「次郎物語」に出会ったこと◆夏休みイベントのキャンプファイヤーに出かける直前、なぜかふと本棚の一角にあったそれを手に取って開いてみた。大家族の中で孤独な少年次郎がいろんな葛藤を経て成長する話だが、こっそり飯びつに手を突っ込んでご飯を盗み食いするなど生き生きした描写が面白くて読むのをやめられなくなった。キャンプファイヤーに渋々出かけ、帰ってから一気に読んだのを覚えている◆このシリーズは重厚なデザインでとっつきにくい印象だったが、ひとたび開けば思いがけず面白い物語が詰まっていると知って「野菊の墓」「路傍の石」などほかの名作も読むようになった。当たり前だが、「面白い本に実際に出会うこと」以外に読書の楽しみを知る方法はない◆その人にとって何が最高に面白い本かは、その人にしか分からない。すべての人がいい本との出会いを体験するには、すべての人に「本と出会う機会」を少しでも多く提供するに限る。公共図書館や学校図書館でもいろんな試みがなされている。地道なようでも、それが読書推進の王道なのだろう。(里)