2024年のノーベル平和賞は、被団協(日本原水爆被害者団体協議会)が受賞することに決まった。幾つかの報道を視聴、率直な喜びの表現のほか「みんな亡くなりました。活動が一番盛んな時にもらえたらもっとよかった」との言葉が印象に残った◆原爆投下に関する作品には何度も接してきた。広島の原爆投下については童話「つるのとぶ日」を小学校の授業で学んだほか、映画「はだしのゲン」を鑑賞。長崎の原爆投下に関する映画「この子を残して」も高校で鑑賞した。原作者の「漫画や実写映画では伝えきれない原爆の恐ろしさを表現したい」との思いから制作されたアニメ版「はだしのゲン」も学校で鑑賞。穏やかに生きていた市井の人々の上に原爆が投下された、その瞬間を描く場面の名状しがたい恐ろしさは今も忘れない◆2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから平和という点において世界は大きく後退、国々の均衡は不安定に揺らいでいる。時代が進んでも世界から戦火が消えない、その事実の根底に、人間を敵と味方に分け「敵には何をしてもいい」という単純で図式的な世界の捉え方があるように思える。そこに人間を人間として見る視点はない◆報じられる戦争被害者の数は単なる数字や記号ではない。その向こうに、一人一人違った顔を持つ人間がいる。それを何よりも雄弁に訴えかけてくるのが、筆舌に尽くしがたい経験を「風化させてはならない」と語り続ける人々の存在である◆核の恐怖が現実感をもって論じられるようになってしまった今、被団協の70年近くに及ぶたゆまぬ活動にようやく光が当てられた。これが遅すぎたかどうかは、これからの人類の思索と行動がどの方向へ向かうかにかかっている。(里)