
日本の俳優・真田広之がエミー賞を受賞した。本作品はその主演ドラマの原作である。
作者のジェームス・クラベルはイギリス人で、第二次世界大戦中に英国海軍で日本軍と戦い捕虜となったことがきっかけで日本に興味を持った。戦後、娘の教科書に「一六〇〇年に日本に漂着したイギリス人がいた」ことを知り戦国時代の日本を調べ始める。それが本作品執筆の動機である。イギリス人が日本の戦国時代を描いたということで稀有の作品ではないだろうか。とても西洋人が書いたとは思えない日本の戦国時代が描かれている。但し、大名や侍たちは架空の人物である。登場する吉井虎長や石堂和成は徳川家康や石田三成を彷彿とさせる。
慶長五年(一六〇〇年)の春、オランダの商船が伊豆の網代村に漂着した。乗っていたのはジョン・ブラックソーン(航海士)というイギリス人であった。本作品の主人公である。丁度太閤秀吉が亡くなって一年が経っていた。本書はブラックソーンの目を通して日本の戦国時代が描かれている。
吉井虎長は江戸を本拠に東日本一帯を治める大名であった。一方石堂和成は太閤秀吉が亡くなった大坂城を本拠に西日本一帯を治める大名である。そんな時代、伊豆に漂着したブラックソーンは大坂城に送られる。大坂城には手勢の少数の兵士を擁しただけの虎長が大老会議のため出席していた。太閤亡き後は石堂や虎長をはじめ五大老で天下を治める取り決めとなっていたからである。しかし実質は虎長と石堂の二人の天下となっていた。敵の本拠地にいる虎長には身の安全を保障するものはなかった。なんとか早く大坂城を抜け出し江戸へ帰る必要があった。そのためにはブラックソーンを利用したかった。
太閤秀吉は切支丹を追放しようとし、石堂もこの太閤の政策を追従していた。しかし虎長は違った。マカオやルソン、インドなどと交易して利益を挙げようと考えていたのである。その為にはブラックソーンが必要であった。
ブラックソーンは伊豆の領主と共に駕籠で伊豆に戻されることとなった。この一行に紛れて虎長も大坂城を抜け出すことにしたのである。
本作品は上巻・中巻・下巻となっているが、全編を通じて関ケ原合戦の前後を描いている。
この項では上巻のみの紹介に止めておこうと思う。外国人が書いた戦国史としては好著のように私には思える。(秀)