
大ヒットコミック「チェンソーマン」の著者が描き、映画化作品も話題を呼んだ長編読み切りコミック。映画を観てから原作を読みました。
物語 東北のある小学校。4年生の藤野歩は得意な4コマ漫画を学年新聞に毎週連載し、人気者となっていた。ある時、2枠のうち1枠を隣のクラスの不登校生、京本に譲ることになる。京本の絵は格段に上手く、藤野はやる気をなくして漫画をやめる。卒業式の日、京本宅へ藤野が卒業証書を届けに行ったことから2人は出会う。京本は藤野を「藤野先生」と呼び、作品の熱烈なファンだと告白…。
ストレートに伝わってくるのは「他者の中に自分の存在がある」、そのことの素晴らしさ。藤野が京本に作品を絶賛されての帰り、雨の田んぼ道で喜びのあまりおかしなスキップを始める場面はもう一度劇場で見たい。血縁関係も利害関係もない他人が本気で自分の作品を全肯定してくれている。初めて知ったその喜びは、創作に本気で取り組む活力につながっていきます。原作ではわずか3ページですが、非常に力のある場面です。
後半の衝撃的な展開は、現実に起こった放火事件を想起させます。あまりにも理不尽な喪失への悲しみとやり場のない怒りを、著者は表現者として作品という形に結晶させずにはいられなかったのでは、という気がしました。
藤野の背中を見て、自分を変えようとしていた京本。藤野もまた京本の背中を見ており、自分の中の彼女の存在を力に変えて再び描き始めます。映画のラスト、観客が見つめる藤野の背中は雄弁に、決意と共に生きる彼女の未来を語っています。 (里)