和歌山県内屈指の景勝地、和歌浦。古来「和歌の聖地」として貴族らから尊ばれてきた。その始まりは西暦724年、即位間もない若き聖武天皇がこの地へ行幸し、景観を愛して「大切に保つように」と詔を発したことだという。それから1300年の節目を迎えることを記念し、今月27日「和歌の聖地・和歌の浦 誕生千三百年記念大祭」が開かれる◆聖武天皇は仏教を国中に広めたこと、奈良の大仏を建立したことなどで古代の天皇の中でも有名。生母の藤原宮子が九海士の里(現御坊市)出身とする説も伝わり、その点で当地方に縁ある人物ともいえる◆「日本史の中の和歌浦」(寺西貞弘著、塙書房)には、古代から近世に至るまで和歌浦がいかに「和歌の聖地」として崇敬されてきたかが数々の事象をもとに詳しく論証。「万葉人が実際は行く機会のなかった和歌浦に熱烈な憧れを抱いていたこと」「室町2代将軍が京の貴族の心をつかむため玉津島神社を和歌浦から勧請したこと」「羽柴秀吉が紀州攻めのあと築城した城を、当時の地名は若山だったが和歌浦にちなんで『和歌山城』と名づけたこと」などが紹介される。和歌山城の逸話は「和歌」という言葉を冠することになった当県の県名の由来でもある◆そして万葉集からとった元号である令和の今、SNSを駆使する若い世代を中心に「空前の短歌ブーム」が起こっている。昔も今も、五・七・五・七・七の三十一文字は日本人の心をのせてうたうのに最適の調べなのかもしれない◆若者たちにはまた、アニメや映画の関連地を旅する「聖地巡礼」という文化もある。今回のイベントで和歌浦の歴史が広く発信されるのを機に、和歌の聖地を訪れる「巡礼」の新しい流れが生まれることを、ふと夢見たくなった。(里)