「雑草という草はない」というのは昨年のNHK朝ドラ「らんまん」のモデルとなった牧野富太郎博士の名言ですが、雑草の壮大な戦略を紹介したユニークな一冊をご紹介します。
内容 「つくし誰の子、すぎなの子」と童謡で親しまれるスギナにも壮大な背景がある。「スギナの仲間はおよそ三億年前の石炭紀に大繁栄し、一世を風靡した。当時はスギナに似た高さ数十メートルにもなる巨大な植物が地上に密生して深い森を作っていたのである。この大森林を築いたスギナの祖先たちが長い年月をかけて石炭となり、近代になって人間社会にエネルギー革命をもたらしたのだ」。スギナは何度となく絶滅の危機を乗り越え、地下にはシェルターのように根茎を地中深く縦横無尽に張り巡らす。根茎は地の底まで伸びて閻魔大王の囲炉裏の自在鉤に使われるなどともいわれる。除草剤で地上部を枯らしてもびくともせず地の底から何度でも復活。「これが一度、地獄を見た者の強さなのだろうか」。(「スギナ 地獄の底からよみがえった雑草」)
切れ者だがプライドが高く下手に触ると痛い目にあわされそう、そんなイメージのススキ。葉にはガラス質のトゲがある。草食動物から身を守るため、ガラスの原料ケイ酸を土中から吸収して蓄積しているのだ。冬になって枯れても茎が固くて立ち尽くしたまま。極寒の中も根元には新しい芽を準備している。その新芽は情熱の赤い色。「プライドの高い実力者もその強さの秘密は人知れぬ熱い情熱にあるのである」。(「ススキ 稲より気高いプライド高い雑草」)
一つ一つの擬人化が絶妙で、畳みかけるような語り口がいい。雄しべの位置によって右型と左型のあるミズアオイを紹介し、レッドデータリストにもあることを説明して「雑草が雑草らしく生きられない世界で、どうして人間が人間らしく生きられるだろう。限られた評価基準で良い悪いを分別するよりも多様性豊かなほうがすばらしいというミズアオイの考えを、人間はもっともっと噛みしめる必要があるだろう」。たとえ話にキューティーハニーやナウシカが出てくるのも楽しい。何の気なしに買ったのにこんなに面白いとは思いませんでした。本書出版翌年亡くなった三上修さんの細密な挿絵も素晴らしい。
解説はエッセイストの宮田珠己さんでこんな題がついています。「たくましく生きよ!雑草たち(ただしうちの庭以外で)」。 (里)