ドイツの寒村の牧師の子に生まれたシュリーマンは、伝説や言い伝えに興味を抱く子供であった。教会の庭に悪い牧師が埋められているという噂があり、夜中にその手が地中より伸びてくるという伝説も真剣に信じる子供であった。

 父の牧師が不祥事を起こして村を追い出されると学業ままならずヨーロッパ各地で商人の小僧として働き出した。しかし、シュリーマンには独特の才があった。それは語学の才である。各国の言語を独学で習得したのである。またその習得方法も独特で、文法書を一冊読み切ると、その言語で書かれた本を音読し、そしてその本を丸暗記するという方法であった。これを約六週間続けると、その言語をマスターしたというのである。そしてその言語の中に、古代ギリシャ語も含まれていたのである。そして丸暗記した本の一つがホメーロスの「オデュッセイア」であった。いわゆるトロイア戦争とトロイの遺跡の伝説が書かれた本である。

 商人として成功したシュリーマンは得意の言語を駆使してヨーロッパ各地で活躍した。丁度その頃クリミヤ戦争やアメリカ南北戦争が始まった。彼はこの戦争で莫大な富を築くことになる。そしてその財のすべてを賭けて、伝説の古代都市トロイアの発掘に向かったのであった。

 シュリーマンが発掘した地層は全部で九層存在した。後に判明するのだが、シュリーマンが発見したのはこのうちの第二層であった。本当のトロイアの地層は第七層に存在していた。しかし、当時の学説を覆し、ホメーロスの叙事詩をもとに空想とされていたトロイアの遺跡が実際に存在することをシュリーマンは証明したのであった。(秀)