結婚を控えた人が突然憂うつになることをマリッジブルーといいますが、本作のタイトルは言葉の順序が逆になり意味深。副題に「Break away(from the past)」=過去からは逃れられない=と記されており、結婚は自分の過去を相手の人生に背負わせてしまうことで、人生自体が憂うつなものになりかねないと思わされました。
物語は、長年付き合った彼女にプロポーズをしたばかりの20代の雨宮守と、長年連れ添った妻から一方的に離婚を告げられた50代の土方剛の視点で交互に進んでいきます。 2人は同じ会社で働き、雨宮は人事部、土方は営業部に所属。コンプライアンスの時代、雨宮は部にハラスメントに関する告発や社内の問題を匿名で投稿することができる制度を提案。試験的に運用されることになります。そこに寄せられたのは、営業部の女性社員から課長である土方のハラスメント行為の告発でした。この出来事を機に、2人はそれぞれに過去の人生と向き合うようになります。
土方は典型的な昭和の男性。妻がパートに出ることも許さず、料理は出来合い物の総菜も認めない。離婚届を渡されて初めて、自分が過去妻にしてきたことと向き合うわけです。一方、雨宮も彼女から過去に男尊女卑ともとれる言葉を言われたことを問いただされ、本当に結婚していいのか悩んでしまいます。
キーワードは「無自覚の加害」。人は無意識のうちに誰かを傷つけている。その過去はいつか掘り返され、針の筵のように批判の目にさらされるかもしれない。刺さる人には嫌な意味でグサッと刺さる一冊かと思います。(鞘)