昭和の戦争が終わり、今月15日で79年となりました。終戦後、戦死した兵士の家族(戦没者遺族)は一時、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の指示により、恩給の停止など社会的冷遇を受けましたが、互いに手を取り合って全国的な互助組織、日本遺族会を立ち上げました。
各都道府県に、日本遺族会の支部としての遺族連合会が設置され、和歌山県では毎年5月5日に和歌山市で戦没者の慰霊行事を行ってきましたが、会の活動を支えてきた戦没者の子どもやおい、めいの遺児世代の高齢化と会員の減少により、現在、慰霊式典は県が主催して行われています。
この本は和歌山県遺族連合会が9年前の2015年(平成27)に発行した終戦70年記念の書籍で、県内の38人の遺児がそれぞれの自分史、家族を戦争で失って以降の来し方を振り返り、悲しみや苦しみ、両親、兄弟への想いが綴られています。
日高地方関係では、父親をニューギニアの戦いで亡くされた御坊市の仮家正弘さん、間戸さと子さん、伯父をサイパンの戦いで亡くした日高川町の小林計廣さんら7人の手記が掲載されています。どの方も生まれてすぐ、幼いころに亡くなった父や伯父への想いとともに、日本人として、一人の人間として戦争のない世の中を願う気持ちを切々と綴っておられます。
いま、この書籍に文章を寄せられた遺児世代は高齢化し、県内市町村の遺族会も、活動を休止したり、実質解散となってしまったところがあります。あまりに突然で理不尽な死は、残された家族にどれほどの心の傷、生活へのダメージを与えるのか。私たちの退屈な日常、平穏な日々がいかに幸せなのかに気づかされます。
来年は終戦から80年の節目となり、日本遺族会が遺児ら家族を対象に実施(厚生労働省の委託事業)してきた海外の戦地を巡る慰霊友好親善事業は今年度で最後になります。この書籍にも、戦死した父やおじの記憶がないまま大きくなり、この事業に参加された方の手記が掲載されています。
国際社会、とりわけ私たちの日本を取り巻く東アジアは再び戦争の危機が高まっているいま、戦没者と遺族の声に耳を傾け、日本人が守るべき「平和」とは何なのか、どのような状況、社会を指すのかを考えたいと思います。(静)