刑事を扱った小説は多数存在する。しかし本作品はそれとは違う。主人公は警察庁に務める東大卒のキャリア官僚である。しかも気分が悪くなるくらいの東大第一主義者だ。東大以外は大学と認めていない。息子が受験生、しかし東大以外の大学入学は許さないのだ。有名私立に合格するも東大は不合格、当然のように浪人を強いる。
官僚たちが東大・京大出身であること、その中でもキャリア組がいかにして出世をしていくのかも詳細に述べられている。そういう意味でも本作品は異色である。
キャリア官僚とは国家公務員I種試験(現在は国家公務員総合職試験)に合格した者を云うが、警察庁に入庁した時点で彼らは警部補に任命される。警察官の階級は、警視総監、警視監、警視長、警視正、警視、警部、警部補、巡査部長、および巡査である。キャリア以外のほとんどの警察官は警部補で定年を迎える。警部補で入庁した彼らは警察学校で研修を受けた後は警部となり、現場の刑事たちはこの時点で追い越されてしまう。後は出世街道まっしぐらである。
そのエリート官僚の警察官の息子が浪人生のストレスから薬物に手を出してしまう。同じ頃、都内で連続殺人事件が三件発生、容疑者として現役警察官が浮上。この三件は容疑者の警察官の非番の日と一致した。警察官僚の息子の薬物事件と部下の警察官が起こした殺人。エリート官僚としてはあってはならないことだ。主人公は事件の隠蔽に動き出す。
そして最後は、「どんなに辛くても耐えなければならない時がある。それが生きていくことだ」と本作品は締めくくられる。迫真の警察小説である。(秀)