現役医師にして小説家、海堂尊氏による壮大な構成を持つ医療小説シリーズ「桜宮サーガ」の中で、おそらく今、全国で再読率が高まっているであろう一冊をご紹介します。

 物語 コートダジュールの学会に出席するため上司と南仏へやってきた、東城大学医学部総合外科学教室、通称佐伯外科の研修医、世良雅志。実は学会出席とは別に、ボスの佐伯から密命を帯びていた。学会で発表予定の天城雪彦なる人物に手紙を手渡すこと。しかし天城は学会をドタキャン。なんとしても本人をつかまえて直接佐伯の手紙を手渡さなければと、探しあぐねた結果、モナコのモンテカルロ、グランカジノで過ごす天城と会う。貴族的な立ち居振る舞い、カリスマ的魅力を持つ天城はこの世でただ一人、彼にしかできない心臓手術「ダイレクト・アナストモーシス」の技術の持ち主。その技術を求め、世界中から患者が天城のもとにやってくる。しかし天城は、患者にルーレットで全財産の半分をかけさせ、勝った人物しか相手にしない。佐伯教授の天城への要請は、「心臓手術の専門施設をつくり、そのトップになること」だが、世良は天城の倫理観に疑問を抱く…。

 本書とその続編「スリジエセンター1991」が、7月から放映されているドラマ「ブラックペアン シーズン2」の原作。私にとって驚くべきことは「ブラックペアン」の主要人物、天才外科医渡海征司郎を演じていた二宮和也が「ブレイズメス1990」の主要人物で渡海とはまったく違うタイプの天才外科医天城雪彦を演じ、「天城先生は渡海先生と生き写し」という設定になっていること。

 原作での天城雪彦は、誰に対しても上から目線でものをいうのが実に自然な、天然の華麗なる貴族キャラ。あっけらかんとした物言いが特徴で、かげりというものが全くない。陰影に富んだ人物だった渡海とは似ても似つかないキャラで独特の魅力があります。「渡海と生き写し」というポイントがどういう意味を持ってくるのか、原作との世界観との違いはどうなるのかなど、原作を読んでからドラマに臨むといろいろと面白い観点から楽しめると思います。

 原作の3作品のポイントは、時代背景がバブル景気からバブル崩壊までの4年間であること。現代から当時を俯瞰する視点で、日本の医療の課題もからめて書かれる点で非常に読み応えがあります。 (里)