6月28日付のこのコーナーで本書の上巻を紹介しました。進学校の女子高を舞台に、圧倒的美貌を持つ〝ユリコ〟と、その姉なのに顔が似ていない〝わたし〟、平凡な容姿に生まれても勉強を頑張って人生を好転させようとする〝和恵〟など、登場人物を通して女性たちの欺瞞が満ちていました。下巻ではその約20年後、30代後半になった彼女たちの様子を中心に描かれています。
――和恵はQ女子高を卒業後、エリート校のQ大学を出て、一流企業のG建設に就職。まだまだ男性優位の時代、和恵は男性並みに仕事をバリバリこなし、出世街道を走りたいと思う一方で、「女として求められたい」という意識を捨てきれなかった。そうして娼婦として夜の渋谷の街角に立つようになる。
ある日、夜の街で和恵はユリコと再会する。ユリコも娼婦として男にひたすら体を売っていた。ユリコは中年女のすたれた様相に。和恵はユリコを心の中で見下していた。そしてユリコは何者かにアパートの一室で殺されてしまう。
和恵は中国人労働者のチャンと出会う。チャンは逃亡同然に日本に来ていた。チャンに何度か抱かれ、和恵は彼に優しくされたいと密かに望んでいたが、彼がユリコを殺した犯人だったと知る。ユリコの亡霊が和恵に語りかけたのだ。「歳を取った娼婦は男の空虚さを暴く存在なのだから憎まれるだけよ」…。
物語は、未解決の東電OL殺人事件をモチーフにされています。高学歴で大企業勤務、一見成功しているように見えても、心に抱えた闇はあり続けるのでしょう。努力して築いた人生でも一瞬にして堕落する怖さを垣間見た気がしました。 (鞘)