全国の書店員の投票によって受賞作が決まる本屋大賞。その本屋大賞とは別に、毎年の投票対象となる刊行期間より以前に出版された本のうち、時代を超えて残る本や、いま読み返しても面白いと思う本を選ぶ「発掘部門」という賞もあり、その中から実行委員会が選ぶ最もオススメの本が「超発掘本!」として選出されます。今回紹介するのは、2022年の超発掘本に決まった「破船」の著者吉村昭が、47年前に発表した実際の獣害事件を基にした作品です。

 あらすじ 1915年(大正4)12月、北海道天塩山麓の開拓村で一頭の羆(ヒグマ)が人家を襲った。体長2・7㍍、体重383㌔の巨大な羆は、たった2日の間に大人と子ども計6人を殺害。鉈や銃を手に男たちが現場に駆け付けるが、荒い鼻息とともに遺体を貪り、骨を噛み砕く不気味な音に、なすすべなく立ち尽くすのみ。やがて警察の分署長が救援隊を率いて乗り込んでくるが、羆に食われた遺体を目にした彼らも完全に戦意を失ってしまう。人間の味を知った羆の行動は、明らかに次の獲物(人間)を求めて川沿いを下りてきており、このままでは村の中心まで被害が広がってしまう。「銀オヤジを呼んだらどうだ?」。銀オヤジとは、かつて村にいた鼻つまみの酒乱で、人づきあいができない凶暴な男だが、羆撃ちの腕だけは確かだった。「あいつに頭を下げたくはないが、いまはそんなことをいってられねえ」。村人たちはすがる思いで、山の向こうの村まで銀オヤジを呼びに行く…。

 日本は北海道にヒグマが生息し、本州と四国の33都道府県にツキノワグマがいます。和歌山にいるツキノワグマは生息数が少ないといわれていますが、日高地方でも日高川町の山間部で毎年のように目撃情報があり、今年は5月下旬に日高町の民家近くで相次いでクマが出没しました。目撃した男性は「実際にクマが目の前にいると、何もできなかった」とその怖さを話されていました。

 実は私も10年ほど前、日高地方の海を見下ろす低山に取材で出かけたとき、近くで獣の鳴き声を耳にして、泣きそうな顔で逃げ帰ったことがあります。おそらく、イノシシだと思いますが、前方からブタの鳴き声のものまねのような大きな重低音が聞こえてきて、カメラしか持っていない私はそれだけで足がすくんでしまいました。これが北海道のヒグマとなれば、その恐怖は想像を絶し、ヘタレな私は山歩きがさらに怖くなりました。(静)