これは「名著」である。

 本書は、日本人はいつ本を読んでいたのか?(まえがき)、という問いかけから始まる。

 まずは第一章、明治時代。武士階級が倒れ、誰もが好きな職業に付ける時代の到来。それは自分の好きな本を読める時代の到来でもあった。この時代、最も多く読まれたのが自己啓発書である。日本初のベストセラーは男性向けの自己啓発書「西国立志編」であった。大正時代に入ると、社会不安と宗教・内省ブームがやってきた。特異すべきは社会構造の変化、つまりサラリーマンの誕生である。サラリーマンたちは自由奔放に生きる一人のおんなナオミに憧れた。「痴人の愛」(谷崎潤一郎著)がベストセラーとなったのである。

 戦前・戦中では、日本で最初の「積読本」が誕生した。教養アンチ・大衆小説が生まれた時代である。第四章では戦後の変遷が述べられ、源氏鶏太のサラリーマン小説やビジネスマン向けハウツー本が人気を博した。続いて日本の高度経済成長の時代は司馬遼太郎が好まれ、なぜみんな「坂の上の雲」を読んだのかと問題提起をしながら司馬作品の魅力が語られる。

 第六章、女たちのカルチャーセンターから、行動と経済の時代と変遷を述べながら著者は「読書とはノイズである」として自論を展開する。

 最終章では、働き方改革と労働小説を示し、SNSと読書量・「推し、燃ゆ」とシリアスレジャーを示して労働者の読書離れを分析する。

 最後に著者はこう問いかける。

 ―自分から遠く離れた文脈(自分を取り囲むすべての環境・筆者注)に触れること、それが読書なのである―と。(秀)