今月7日、熊野古道が「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録され、ちょうど20周年を迎えた。20年という節目を記念し、県内ではさまざまな観光キャンペーンを実施。改めて熊野古道の魅力を発信し、和歌山に訪れる人を増やそうとする動きが展開されている。

 熊野古道のメインルートとされた紀伊路が通る日高地方にも、各地の九十九王子跡をはじめ、当時の情景を思い起こさせる趣ある道が多く残っている。日高町の鹿ヶ瀬峠、印南町の切目王子跡は2022年に国の史跡に指定され、地元の人たちが大切にしてきた史跡や遺構が、歴史的な価値があると認められている。

 地元の人間からすると、幼い頃から親しんできた熊野古道は当たり前の存在すぎて、その歴史的意義の深さに後から気付くことがある。私自身、小中学校のときに通学路を通っていた際、地図を片手に熊野古道を歩く人たちとすれ違い、「王子跡は近くにありますか」と尋ねられたことがよくあった。当時は「なんでもないところをよく歩けるな」くらいにしか思っていなかったが、目的地(熊野三山)のため道をひたすら歩いて行くそのプロセスが、熊野古道の醍醐味だと考えるようになった。

 大人になってから熊野三山を巡ると、また違う景色が見える。1000年以上前から熊野三山を目指して多くの歴史上人物が熊野古道を歩き、さまざまな逸話を残してきたと思うと感慨深い。現代でいえば、歌手の宇多田ヒカルが休業中に「人間活動」の一環として熊野古道を一人で巡礼したのは有名な話。その後の活躍は言わずもがなで、熊野がパワーをもたらしたと言っていいのかもしれない。(鞘)