毎年正月2・3日に行われる国民的スポーツイベント「箱根駅伝」に、「半沢直樹」などドラマ化されたヒット作を多数持つ実力派の著者が真正面から取り組んだ、王道の青春小説をご紹介します。テレビマン達の表には出ない誇り高き戦いも描かれます。

 物語 昔は箱根駅伝で連覇したこともある古豪・明誠学院大学。もう何年も本選からは遠ざかり、今回も予選落ちが決まった。長年チームを率いた猛将・諸矢は引退を宣言、後任をかつての名選手で今はビジネス界で活躍する甲斐に託すという。ОB会は猛反対するが、諸矢の意志は固い。

 主将の4年生・青葉隼斗は箱根へのラストチャンスだった予選会で不調に見舞われたが、関東学生連合のメンバーに明誠から唯一選抜される。学生連合チームの監督も、甲斐が務めるという。オープン参加で成績が記録には残らない学連チームだが、甲斐は予選敗退の各校から集められたメンバー16人の前で「3位以上」と常識外れの高い目標を掲げる。「素人の大言壮語」とマスコミは冷笑し、甲斐は猛烈なバッシングを受ける。

 一方、箱根駅伝の中継番組を毎年放送する大日テレビでは、プロデューサーの徳重が難題を抱えていた。メイン司会の前田に重大な病が見つかり、降板を余儀なくされたのだ。アナウンサーとしての地力に加え、刻々と変化する状況に対応する瞬発力の求められる重責ある仕事、代役には滅多な人選はできない…。

 ことし1月で第100回を迎えた箱根駅伝。日本人の多くが正月に必ず見る番組として楽しみにしている一大イベントを舞台にして、まったく新しい独自の勝負の物語を創り上げるという難業を、著者は見事にやってのけています。

 主人公は、器用さはないが一生懸命で周囲のメンバーのことも思いやる4年生。もう1人の主人公は、伝統の重みと若者たち1人1人へのリスペクトを大切にしながら番組づくりにすべてをかけるプロデューサー。彼らの戦いを真正面からじっくり描いていく著者のスタイルには、物語づくりにおけるある信念を感じます。

 原則に従って物事を正しく行う。人と人との関係では、常に相手への敬意を忘れない。基本中の基本をきちんと押さえる、いわば生き方の「王道」への賛歌がここにはあり、内から真の輝きを放つ物語となっています。じっくり読むうちに自然と涙のにじんでくる、力を持った物語です。(里)