
直木賞作家佐藤愛子のエッセイである。先月から映画も公開されている。
新聞の人生相談などは大嫌いな佐藤愛子。もし相談があれば「何をそんなにくだくだ悩んでいるんだ。しっかりしろ!」と一喝して終わってしまうからだという。著者は大正十二年生まれ、戦前、戦後と大変な時期を生き抜いてきた肝っ玉ばあさんだ。そんな佐藤愛子が銀座の三越百貨店を訪れたときのことである。以下、本文より。
―私は三越のトイレに入った。用をすませて、水を流そうとしたら、どこにもハンドルらしきものがない。代わりの押しボタンでもあるかと探したがない。水洗式のはじめの頃は天井近くに垂れている鎖を引っ張ると水が出た。それを思い出しながら天井を見上げたがそれもない。(中略)、この頃は立ち上がると勝手に水が出てくるものまである。(中略)
しかし、ここには何も見つからず、
なんだってこういうわけのわからんものを作るのだ!(中略)
その時私の怒りに燃える目がドアの近くにぶら下がっている紐を見つけた。(中略)
私はエイと紐を引っぱった。
とたんに耳をつんざくベルの音。水が出るどころじゃあない。うろうろする間もなくトイレのドアがノックされ、
「お客さま…お客さま…どうなさいました?…」
女店員の金切声。その紐は緊急時に助けを呼ぶ警報装置だったのだ。―
これやあれや、抱腹絶倒のエピソード満載のエッセイである。忙しい現代人でも、空き時間にでも楽しく読める一冊ではないだろうか。(秀)


