「月の満ち欠け」以来、7年ぶりとなる長編小説。冒頭から次々と謎がちりばめられ、読み進むうちに早くその謎の正体を知りたくなり、どんどん深みにはまっていきます。著者はおそらく、砂漠の蟻地獄でもがく読者を想像し、ニヤニヤしながら本作を書いていたのでしょう。

 あらすじ その年の7月、丸田君はスマホに奇妙なメッセージを受け取った。現実に起こりうるはずのない言い掛かりのような予言で、彼にはまったく身に覚えがなかった。送信者名は不明、090から始まる電話番号だけが表示されている。彼が目にしたのはこんな一文だった。

 今年の冬、彼女はおまえの子供を産む

 これは未来の予言。起こりうるはずのない未来の予言。だがこれは、まったく身に覚えのない予言とは言い切れないかもしれない。丸田君は、過去の記憶の断片がむこうから迫ってくるのを感じていた――。

 主な登場人物はマルユウ(丸田優)、マルセイ(丸田誠一郎)、佐渡くん、真秀(女子)の幼なじみの4人。これに途中から4人の小学校時代の教師だった真秀の母(杉森先生)ら2人が加わり、この6人の視点が切り替わりながら物語が進んでいきます。

 ある日、差出人不明、意味不明のショートメールを受け取ったマルユウは、偶然、いまやカリスマロックバンドとなった高校時代の同級生たちのインタビューをテレビで見て、彼らが明らかに自分とは違う人物のことを「マルユウ」と言っていることに驚きます。

 この冒頭の数ページで早くも眉間にしわが一本入ってしまいますが、著者がメディアの取材で告白しているように、「普通の小説ならしっかり描くところを全部取っ払った」のと同時に、逆にどうでもいいようなところを意味ありげに描き、「おまえ誰やねん〓」とツッコミを入れてしまう謎の「私」がちょいちょい登場します。

 真実は現実の世界の事件なのか、偶然の事故なのか、はたまたUFOで飛来した宇宙人の仕業なのか、いまテレビドラマで大流行の記憶障害なのか。村上春樹の「1Q84」のようなダークなファンタジー、スティーブン・キングの「スタンド・バイ・ミー」のような青春のほろ苦さも感じつつ、後半、答えを知りたい思いは加速度をつけて一気に駆け抜けます。(静)