
今年復刊された、著者にとって初めての短編集をご紹介します。安西水丸氏による表紙絵など装丁は当時と同じです。
内容 7編収録。表題作の題は英語圏の慣用句で、非常に時間のかかることを表す。
「僕」はこれまで3人の中国人と出会った。最初は小学校の時、何かの試験会場になっていた中国人のための小学校で試験監督をしていた中国人教師。その言葉は大きくなった「僕」の心にも残る。「顔を上げて胸を張りなさい。そして誇りを持ちなさい」。2人目はデートして傷つけてしまったバイト先の女子大生。3人目は百科事典のセールスマンになった高校時代の同級生。彼らとの束の間の邂逅は、「あるべきもの」と「現実」との途方もない距離を思わせる…。(「中国行きのスロウ・ボート」)
古いリゾートホテルで恋人を待ち続ける「僕」。ホテルの食堂で出会った若い女に興味を引かれる。上品で育ちがよさそう、時折右のてのひらをじっと眺める癖が気にかかる。機会を捉えて何度か言葉を交わした末、彼女が少女時代にかわいがっていた犬についての記憶をきく…。(「土の中の彼女の小さな犬」)
村上春樹ファンになったのは大学1年生の時で、本書もその時に読みました。情景も心情も描写が的確で、描かれているものをすっと心に反映させることができる。読むこと自体が心地よく、言葉の選び方にすごい才能だと思ったものです。
ポイントは、文体そのものがたたえている淡々としたユーモア、その中にひそむ対象への視点の鋭さにあるのではと、今回読み直して思いました。ノーベル賞を取らなくとも、十分にすごい作家です。(里)


