
近畿の梅雨入りはまだですが、6月は雨の季節。今月のテーマは「雨」とします。
「悪魔が来りて笛を吹く」(横溝正史著、角川文庫)
横溝正史の人気シリーズ「金田一耕助もの」のひとつ。西田敏行主演で映画化されています。初めてモンタージュ写真が捜査に使われた帝銀事件をモデルにしたことでも話題になりました。
金田一耕助が事件調査のため関西へ行く下りで、印象深い雨の描写があります。
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神戸も戦災がひどくて、須磨のあたりも大部分焼き払われているが、須磨寺を中心として、わずかばかり焼けのこったこのあたりのたたずまいが、折りからそぼ降る雨のなかに、辛うじて古風な時代の昔をたもっている。三春園はそういう昔のなかに、しっとりと落ち着いていた。(略)
金田一耕助はふと立ち上がって縁側へ出てみる。雨はいくらか小降りになって、空も明るくなっている。そして、さっきは気がつかなかった淡路島が、墨汁をにじませたように、海のむこうに浮かんでいるのが見える。