本紙3面で連載していた現代小説「娘が巣立つ朝」(伊吹有喜著)が第340回で完結。時代小説「槍と筆 天下を見届けた男」(佐藤巖太郎著)がスタートしている◆「娘が巣立つ朝」は、一人娘の結婚を巡り、50代の夫婦がひそかに抱えていた葛藤にあらためて直面。娘の婚約者の一家との間にもトラブルが起こり…という物語。娘、父、母とそれぞれの視点から順に書かれていくのが特徴で、世代の違う2組の男女の物語が同時進行するのが読みどころだった。未読の方も、書籍化された時にはぜひご一読いただきたい◆替わって始まった「筆と槍」は、右筆(ゆうひつ)、武家の秘書役が主人公。戦国大名は、必ずしも武に優れた人物が力を手にしていたわけではなかった。実際に戦にかかる以前に交渉術、すなわち駆け引きが大きくものをいう。昨年の大河ドラマ「どうする家康」で、関ケ原に臨まんとする家康が諸国大名におびただしい書状を送る描写があったように、場合によっては一通の書状が大きな意味を持つ。そこに焦点を当てると、右筆の存在の重要性がクローズアップされる◆信長、秀吉に仕え、伊達政宗とも大きな関わりを持つ主人公の和久宗是は、タイトルが象徴するように文にも武にも優れた人物。連載開始直前に掲載した予告編の挿絵では、甲冑ではなく着流し姿に兜をかぶるという変わったいでたちで騎乗する男が描かれていた。これがおそらくクライマックスの場面となる◆そのことを頭に入れたうえで、その時がくるまで一日1話ずつの物語を楽しんで読み進んでいただきたい。裏方の目から見た、戦国乱世が終焉に向かうまでの物語である。(里)