辰年の幕開けの月、1月のテーマは「龍」です。

 「東西不思議物語」(澁澤龍彥著、河出文庫)

 荒俣宏より上の世代できわめて博覧強記な作家、澁澤龍彥が洋の東西を問わず「不思議」をテーマに自由自在に筆を走らせた一冊。龍の登場する逸話も幾つかあります。

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 石の大好きな石亭が、ある行脚の僧から珍しい石をもらったが、それは掌ほどの大きさの黒い石で、机の上の硯の上に置くと、こんこんと清浄な水があふれ出てくる。じつに不思議な眺めである。石亭が喜んで大事にしていると、ある老人がつくづくと見て、

「こんなに水気を生ずる石は、きっと内部に竜がひそんでいるのだろう。竜が昇天したら大へんなことになる。早く捨てた方がいい」と忠告した。(略)

 ある雨の降りそうな曇った日に、石が常になくおびただしく水気を発散し始めた。さすがの石亭も驚いて、これを村はずれの神社のお堂に納めてきた。ところが、その夜、雨が激しく降り雷が鳴って、お堂の中から黒雲が起こり、何ものかが昇天したのである。

 翌日になって村人たちがお堂に行ってみると、石は二つにくだけ、明らかに竜が昇天した様子を物語っていたという。