今年3月、71歳で他界した教授こと坂本龍一さんが半生を語った本を紹介します。天才的音楽家の時代との関わり、世界との関わりがよく分かります。

 内容 大作家たちとつきあってきた伝説的な編集者である父のもとに生まれ、幼稚園で初めて作曲。高校時代は学生運動に明け暮れ、当時のサブカルチャーの中心地だった新宿で日々を過ごしながら映画と音楽などから文化的素養を吸収していった。東京芸術大学在学中にスタジオミュージシャンとして活動を開始。やがて出会った細野晴臣、高橋幸宏と結成した「イエロー・マジック・オーケストラ」が商業的な成功を収め、人気ミュージシャンの仲間入り。狂騒の日々を経て「散開」し、活動の幅を世界へと広げながら「戦場のメリークリスマス」「ラストエンペラー」で映画音楽界にも足を踏み入れ、「世界の坂本」となっていく…。

 持っているアルバムはYMOの「SERⅤICE」だけですが、「メリークリスマス、ミスターローレンス」「パースペクティヴ」等の楽曲の非常に美しいメロディーライン、力を持った音が好きです。意志の強さと独自の美意識を感じさせる風貌もカッコいいと思い、中学時代からファンでした。YMO散開後、大学生の時に初めてコンサートに行き、生演奏に接して感動したものです。

 元々自伝や伝記というジャンルも好きで、本書は大変興味深く読みました。「教授」というアカデミックな愛称とは裏腹に、ご本人は内部にアグレッシブでラジカルな反骨精神を湛えていると思っていましたが、それを確認したような読後感でした。

 自身の信じる唯一無二の音楽を世に出し続け、さらに言葉と行動で意見を表明することにより、現代という時代の内包する理不尽さ、浅薄さに果敢に立ち向かっていたという印象が残っています。(里)