谷村新司さんの訃報を受けて、中2の時に買って、幾度となく読み返したこの本を思い出しました。30代の谷村新司、堀内孝雄、矢沢透が、黎明期からのアリスの9年を熱く語っています。

 内容 1971年12月、大阪。22歳の谷村新司と堀内孝雄は小さなそば屋「浪花そば」でおばちゃんを相手に気持ちを高揚させていた。「新しいグループをつくるんや。名前はアリス。ええやろ」「おめでとう、揚げ玉サービスや」。

 所属事務所の名は「ヤングジャパン」。若き張り切り社長、細川健と一緒に立ち上げたばかり。実は、彼らはアリス誕生の少し前にミュージシャン何組かでアメリカツアーを敢行。失敗して莫大な借金を抱えていた。さらにアメリカからジェームズ・ブラウンを呼んで公演を行うが、早すぎて失敗。借金の総額は1億5000万円。実家で谷村が父に「1億5000万の借金ができた」と報告すると、父はこう言った。「よう頑張った。普通の信用じゃできんこっちゃ」。

 超過密スケジュールで全国を駆け回る3人と細川社長。 ヒット曲もなく、客数はさっぱり。それでも「聴いてさえもらえれば、きっと心をつかんで見せる」との確信が3人にはあった。

 年間300ステージ以上という驚異的なスケジュールをこなしてもお金は目の前を素通りするばかりだったが、 無我夢中の数年を経て、ようやく空気は変わる。

「何や人が集まってるね。事故かな」「いや、あれはコンサートのお客さんだよ」「でも今日、アリスのほかに何かあるの?」

 顔を見合わせる3人。

「超満員やった。ぼくは会場の熱気に圧倒され、鳥肌だっていた」…

 この決して厚くない一冊にみなぎる熱量は、中学時代の私を惹きつけてやみませんでした。今読み返しても、数々の名曲を生み、大きな仕事を成し遂げた「チンペイさん」のスケールの大きさの原点が、ここにはあるように思います。(里)