母校の富田中学校で後輩たちに話をする楠本氏

 日本人の死亡原因の第1位で、生涯に2人に1人がかかり、4人に1人が死亡するといわれるがん。適切な予防でリスクを減らし、自覚症状のないうちの検診による早期発見、治療で治る確率が高くなる。県は小学生や中学生のがん教育を推進しており、16日には白浜町の富田中学校(松本利夫校長)で、同校出身の国立がん研究センター中央病院副院長楠本昌彦氏(64)が講演を行った。

 2021年中に全国で亡くなった143万9856人のうち、悪性新生物(がん)で亡くなった人は26・5%の38万1505人。2位の心疾患(14・9%)、3位の老衰(10・6%)を大きく引き離してがんは死因のトップで、和歌山県もほぼ同じ状況にあり、検診受診率は胃、肺、大腸、子宮頸、乳の5がんすべてが全国平均を下回っている。

 県は今年度、約2億8000万円のがん対策予算を組み、予防、検診、治療、がんとの共生・基盤整備等――を重点に各種事業を推進。児童、生徒に対するがん教育では、教職員らを対象とした研修会の開催、専門医や学校医ら外部講師を活用したがん教育などの取り組みを進めている。

 楠本氏は白浜町庄川の出身で、富田中、田辺高を卒業して神戸大医学部に進み、38歳から東京築地の国立がん研究センター中央病院に勤務。現在は副院長と放射線診断科長のほか、県のがん対策推進委員も務めている。1年前、都教委の依頼で武蔵村山市の市立中学校で初めて講演し、生徒たちとの質疑応答から時代の流れやがん教育の重要性を感じ、今回は自ら町教委に手紙を書き、母校での講演が実現した。

 体育館に集まった約270人の後輩たちを前に、楠本氏は自身の中学時代を振り返り、勉強をすることの理由、がんの発症メカニズム、予防対策、治療法などを説明。がん予防の基本として▽たばこを吸わない▽バランスのよい食事▽適度な運動――などを挙げ、「がんになっても早期であれば治る可能性は高い。そのためには40代、50代になれば自覚症状がなくても検診を受けることが重要」とした。

 講演終了後、前生徒会長の井澗佑志郎君(3年生)があいさつし、「僕も長生きするためにたばこを吸わず、年をとれば定期的に検診を受けます。また、勉強は楽しくないけど、将来、何かの役に立つと思って地道な努力を続けていきます」などと述べた。

 県教委によると、21年度の県内の学校(小学校、中学校、高校)でのがん教育実施率は16・3%。今年度はこれまで、外部講師による授業が4校で行われ、11月には那智勝浦町の小学校、田辺市の中学校で実施する。