今回紹介するのは五条紀夫の「クローズドサスペンスヘブン」。「新潮ミステリー大賞」の選考委員である湊かなえ、道尾秀介も太鼓判を押す新感覚のミステリーだ。

 物語は、主人公が刃物で首を切られ、殺されるところから始まる。目覚めたのはとある砂浜。首を切られたということや一般常識など以外の記憶が一切なく、誰に殺されたのかも思い出せない。周辺をさまよっているとある館に到着する。そこには男女5人がおり、全員記憶がない。共通しているのは全員が殺されたということ。そして彼らがいるのは天国ということだ。

 6人は名前も覚えていないので、見た目の特徴からヒゲオ、ヤクザなどのニックネームをつけ、それで呼び合う。話し合いの中、生前、この屋敷に集まって、そこで何者かによって殺害されたということがわかる。そして成仏に必要なのは犯人を突き止めることと考え出す。

 記憶のないメンバーたちの謎解きのヒントになるのは、毎日届く新聞だ。バイクの音とともに姿なき者によって配達される新聞には、屋敷での殺人事件の内容が書かれ、日々、新たな情報が入ってくる。彼らは与えられる情報や徐々に思い出す記憶をもとに、犯人を探していく。

 この物語の特徴は、なんといっても登場人物が全員死んでいるということだ。天国の描写もなかなかおもしろい。食料などは自動的に補充され、6人の中には料理人やメイドもいる。外には海があり、海水浴も楽しめる。ビールもあり、もう天国暮らしでいいのではとも思うが、やはり自身を殺した犯人、またその動機への探求が進む。ただ皆すでに死んでいるだけあって、終始和やかなムード。犯人がわかったからといって、どうこうしようとする者もおらず、個性的な登場人物のやり取りも楽しい。天国の仕組みを理解しながら犯人探しは進み、さらに新聞配達員の存在が物語のスピードを加速させ、想像を超えるラストが待っている。(城)