あらすじ 賃貸に住み家賃を払い続けるのか、ローンを組んで終の棲家となるマンションを購入するのか、決断一つで人生の転機が訪れる。「借金をして家を買おう」。37歳、独身、小説家・猪瀬藍は、中古マンションの購入を決意。夫婦と娘2人の4人家族が暮らす物件を内見し、理想的なマンションに出会えたと契約を結ぶことに。新居での新生活に心躍らす藍。しかし、その先に思いもかけない展開が待ち受けていた…。マンション購入はその物件だけではなく周りの環境まるごとが自分の世界になるということ。藍の身に衝撃の結末が訪れる。果たして、その物件に手を出してはいけなかったのか…。

 読み終わってまず、こんな結末になるなんて想定していなかったという衝撃を受けました。中古マンションを購入して新しい暮らしが始まり、その後に襲いかかる恐怖とも言えるような出来事に遭遇したら、自分だったらどうするか。怒りが先にくるのか、それとも自分の弱さや甘さに呆れて茫然となってしまうのか。まさかの結末すぎて言葉も出ませんでした。主人公が、マンションの売り主一家や近隣の住民に対して不信を抱くかと思えば、「やはりそんな悪い人ではない。むしろ恵まれた環境で幸せ」と思い直したりする、その気持ちの振れ幅がおもしろかったです。読者視点と登場人物視点が異なっている分、こちらのもどかしさが増すおもしろみで、読みやすく、あっという間に読み終えてしまいました。ずっと付き纏ってくる不気味な予感と、その違和感がはっきりする結末が好みでした。いいことも悪いこともずっと見守ってきてくれた家を離れるのは寂しいだろうとは思いますが、まだどこかに移り住んだ経験がないため、新しい住人に対して嫉妬のような感情が湧いてしまうことには驚きました。何とも言えず、ちょっとホラーで予想外すぎて意外なミステリーでした。(米)