9月のテーマは「敬老月間」。高齢のキャラクターを紹介してきましたが、今週は、80歳を過ぎてから海外での活動に力を尽くした実在の人物を紹介したノンフィクションです。

 「彼らの流儀」(沢木耕太郎著、新潮文庫)

 それぞれの「流儀」で生を歩む人物をクローズアップした33編の物語。「風の学校」の章では、80歳にしてアフガニスタンで井戸を掘る決意をし、85歳で他界するまでその活動に従事した中田正一氏が取り上げられます。

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 この四月から五月にかけて、中田はアフガニスタンを訪れた。(略)周囲の人々は、八十四歳の中田には危険すぎると引き留めたが、当人は少しも恐怖を感じていなかった。(略)郊外の学校を案内してくれた人が、地雷を恐れておっかなびっくり歩いているのを見て、思わずこう言ってしまったほどだった。

「ぼくについていらっしゃい」

 それは中田に、地雷を踏んだり砲弾に当たったりすることはまずないだろうという奇妙な自信があったからだが、同時に、当たれば当たったで別にかまわないという思い切りがあったからでもある。明治に生まれ、さまざま賑やかな経験をし、ほとんど悔いのない人生を送ってきた。たとえその場で死んでも悲しまなければならないことはほとんどなかった。