今回紹介するのは呉勝浩の「爆弾」。このミステリーがすごい!2023年版国内編1位、ミステリが読みたい!2023年版国内編1位の作品。

 物語の始まりは、東京都内の居酒屋で傷害事件を起こした男が野方警察署で取り調べを受ける。男の年齢は49歳、でっぷりと腹の突き出た肥満体型で、頭のてっぺんには大きな10円ハゲ、酔った勢いで自動販売機を蹴り飛ばし、止めようとした酒屋店主を殴り飛ばし、傷害で捕まったが、乱暴な感じでなく、むしろ卑屈なほどへりくだっている。身分証やスマホは所持しておらず名前を「スズキタゴサク」と名乗るその男。のらりくらりと質問を交わす男にうんざりする刑事だったが、そんな中男がある言葉を発する。「事件が起こる気配です。秋葉原の辺りかなあ」と10時に秋葉原で何か事件が起こると言い出した。そして宣言された10時に秋葉原で爆破事件が発生してしまう。

 一気に緊張が走る中、男はさらに「わたしの霊感じゃあ、ここから三度、次は一時間後に爆発します」と述べ、1時間後、東京ドームシティで爆発。被害の小さかった秋葉原とは違い、今度は夫婦が爆発に巻き込まれ、のちに1人が亡くなることになる。

 2度の爆破事件が起こった後、取調べは警視庁の清宮が担当することになる。取り調べはスズキタゴサクのペースで進められ、スズキが作った「九つの尻尾」というゲームに付き合わされる清宮。そんな中、スズキから「ハセベユウコウ」という名が出てくる。それは数年前に不祥事を起こした刑事の名前だった――。

 この小説の読みどころはなんといってもスズキと刑事の心理戦。物語の大半が取調室で行われているくらい。爆弾の場所をほのめかしながらも話をはぐらかし続けるスズキには読んでいてもイライラするところはあるが、スズキのクイズにはさまざまな伏線が隠されており、ラストは思わぬ展開が待っている。(城)