ストーリー 短大時代の同級生に誘われ合コンに来た水原咲良だったが場になじめずにいた。去年彼氏にふられてからは咲良の心のよりどころは大好きなアイドルグループのキュービックだったが、コンサートのチケットには外れ、ニューアルバムの初回限定盤も予約できずに買えずじまいだった。

 翌朝、「坂下」の停留所でバスを待つ咲良。いつも決まった顔ぶれの5人が集まるが、その時は一番乗りだったのか誰もいなかった。自分の今後などを考えため息をつくと、バス停の台にCDジャケットが立てかけてあるのが目に留まる。それはキュービックのニューアルバムの初回限定盤だった。ジャケットの端には「おとしもの」と書かれた付箋が貼られている。咲良は少し悩んだがCDをバックの中に押し込んだ。

 次の日の朝、目覚まし時計に腕を伸ばすと咲良はその腕に〝神様当番〟と書かれているのをみつける。「お当番さん、みーつけた!」と背後から声をかけられ振り返ると、見知らぬお爺さんが床に正座している。お爺さんは額からてっぺんに向かってつるつるで、頭の両脇には白い毛がもわもわと生えていた。白いラインの入ったえんじ色の長袖ジャージを着ている。「どなた…ですか」咲良が聞くと「わし、神様」と答えるのだが…。

 本書は主人公が違う5作の短編集で、主人公たちは毎回「坂下」のバス停でおとしものを拾い「神様当番」になるというもの。神様のお願いを叶えないと、腕の文字は消えないということで主人公たちは頑張ります。

 本作の文庫版には巻末で著者とミニチュア写真家の田中達也さんとの対談が掲載されています。そこで神様が吉本新喜劇の辻本茂雄が演じる茂造をモデルにしていると語られています。それを頭の中でイメージしなが読むと、より面白く感じます。もし面白く感じなくても「許してやったらどうや」(将)