先日、担当する日高町で比井の歴史に関する講演会を取材した。講師を務めた同町の裏直記さんの話は非常に分かりやすく、興味深かった。比井は日高町の海辺のまちで、江戸時代に廻船問屋で栄えた。大阪などから江戸へ荷物を運ぶ船が比井にたくさん寄港したのを見て、商売になると始めたのは、よそから比井に移り住んできた人だったという。先見の明を持った人たちの発想と行動力が地域の隆盛の源となった。人口減が課題の現在にも当てはまることだと感心した。
祭り好きの筆者が最も興味をひかれたのは、だんじりを持ち上げてぶつけあう勇壮な比井祭も、かつての廻船問屋が取り入れたのではないかという話。西宮などで今も残る祭りと同じ形態で、当時、西宮の灘の酒を積んで江戸へ運んでいた比井の廻船問屋が「こういう祭りをしたい」と導入したと考えられるといわれていた。御坊祭の四ツ太鼓は瀬戸内の祭りにみられるもので、当時、御坊の廻船問屋がよく立ち寄っていた地域の祭りから取り入れたのではとも話されていた。人の交流が生まれることで新たな文化も生まれるのだとあらためて感じた。
今年は日高地方の多くの地域で4年ぶりとなる秋祭りが行われる。筆者のふるさと、印南祭も例年通りで、各地区では太鼓や獅子舞の練習を行う「ならし」が始まっている。祭りは地域のコミュニケーションを深める最高の機会でもある。年々、少子高齢化を肌で感じる機会にもなっているが、数百年続く地域の伝統を今後も引き継いでいくためには、なんといっても祭りに参加すること。各事業所も祭り休暇にぜひ寛容になってもらいたいと願う。(片)