ノンフィクションライターとして幾つもの実績を挙げ、近年はフィクション、時代小説へと活動の幅を広げる著者の原点が詰まった初期コラム集をご紹介します。

 内容 「紙のライオン」というコラムはないが、プリンプトン著「ペーパー・ライオン」を引用。アメフトチーム「デトロイト・ライオン」に密着取材、キャンプにも参加したが、自分がなれるのは自ら檻に入った紙のライオンで、本物にはなれない。そこにいつでも自由に出入りできるという物書きの特権こそが、彼を紙のライオンにする。著者は幾つもの読書体験や取材体験を紹介しつつ、自身の流儀を深く掘り下げて考察していく…。

 「一年間、ほんとにこの一年間、生きていくことが面白かったから…」

 大宅壮一賞を受けてから「一瞬の夏」を執筆するまでの間の時期のインタビューが収録されており、その中のこの言葉が、私に本書をじっくり読み返させたのでした。

 それは「一瞬の夏」で描かれた、ボクサーのカシアス内藤と行動を共にし、再起への挑戦に向けて一緒に全力疾走した1年間を振り返っての、たくまずして発露した感慨。クールなイメージの著者からこのように熱い言葉が出たのは意外でした。この時、著者はまだ「一瞬の夏」を執筆することすら決めてはいません。書くためではなく、彼と「共に生きる」ことが著者にはずっと大切だった。結果の如何にかかわらず、その濃密な1年間を持ったことが著者のその後の執筆行動の核となっているような気がします。

 その視点を持って、著者が作家としての方法論を展開する本書を読み直すのは、出版から40年近い時を経ても得ることの多い、大変意義深い読書体験でした。

 実は、著者の近年のフィクションや時代小説には気持ちが追いつかず、気になりながらもまだ読んでいないのですが、原点としてのこの一冊を読んだ今なら、新たな気持ちでそれらを読み進めることができそうな気がします。(里)