梅雨ももうすぐ明けるころですが、雨の時期に読みたい作品として本作が支持されていると聞き、手に取りました。2組のきょうだいの複雑な想いが交差するストーリー。人の深層心理を巧みに描き、どんでん返しの展開が人気のミステリー作家とあり、終盤につれめくるページの手が止まらなかったです。

 物語 添木田蓮と楓の兄妹は事故で母親を失い、当時再婚したばかりの継父と暮らしていた。継父は蓮に暴力をふるうなど関係は良くなく、蓮は楓に不自由させまいと高校卒業後、「レッドタン」という居酒屋でバイトを始める。店主の半沢とは関係は良好だった。そんな中、蓮は楓が継父から暴行されていた事実を知り、継父を殺害することを心に決める。

 溝田辰也、圭介の兄弟は幼くして両親を亡くし、継母の里江と暮らしていた。里江は良い母親であろうと努力するも、受け入れられない辰也は万引きを繰り返し、里江を困らせていた。

 台風が接近していたある日、レッドタンを訪れた辰也と圭介は万引きし蓮に捕まってしまうが、蓮の恩情で警察に知らされずに済む。この日蓮は継父の殺害を実行しようとしていたがバイトから帰宅すると、継父の遺体がそこにあった。実は継父を殺害したのは楓で、スカーフを使って実行したのだ。その後、楓のもとに差出人不明の脅迫状が届き、殺人を目撃されていたことが判明する…。

 苦しさを抱えた2組のきょうだいに起こる不運。タイトルにある龍神は、水を司る神様として知られていますが、彼らに容赦なく雨を降らせているかのようです。実際に雨の日の描写が多く、それが物語の重さを際立出せています。最後の最後に大事件が起こりますが、それを乗り越えたラストは、彼らへの救いが感じられるような終わり方で、後味は悪く読み終えることはありませんでした。ミステリーの名手に完敗です。(鞘)