国連人口基金(UNFPA)は先月、インドの人口が推定で14億2860万人となり、今年夏には中国を抜いて世界最多になるとの予測を公表しました。インドは15~64歳の生産年齢人口が多く、経済成長も著しく、世界最大の民主主義国としてその存在感を増しています。
人口が多い分、民族も多く、宗教や文化、言語も地域によって異なり、エネルギッシュな混沌の国といった印象を持つ人も多いと思います。近年は「自由で開かれたインド太平洋」というワードをよく耳にするようになり、国際政治のニュースでも「???」と首をかしげることが多いのですが、この本にはそのあたりの理由が詳しく書かれています。
ロシアのウクライナ侵攻を受け、国連安全保障理事会がロシア非難決議を採決した際、インドは当然、NATO諸国のいわゆる西側と同調すると思われましたが、結果はまさかの棄権。日本も加わったロシアに対する経済制裁の輪にも入りませんでした。ウクライナ支援の主要国である米国と日本が主導し、インドとオーストラリアも加えた4カ国の外交・安全保障の枠組み(クアッド)が出来上がり、自由主義と対立するロシア、中国を念頭に置いた私たちの仲間としての強い言動が期待されるところですが、ロシアに対しては制裁どころか、ウクライナ侵攻開始後から逆にエネルギー輸入を急増させています。
インドの外交戦略は初代のネルー首相以来、非同盟を基本スタンスとし、第2次大戦後の米ソ冷戦時代はどちらの陣営にも与しませんでした。隣接する中国とは、かつてともに列強による辛酸をなめた関係から、一時は兄弟とまでいわれるほどの蜜月ぶりをみせるも、チベット問題をきっかけに国境紛争が勃発。戦いに敗れて以降、今度はソ連に接近し、ソ連崩壊後から中国の台頭、米中の対立が激化するなか、非同盟を貫きながらソ連(ロシア)との関係はいまなお強いものがあります。
インドはいまや世界5位の経済大国となりました。中国が「一帯一路」を掲げ、世界の最強国になる野望を隠さぬなか、本書はその思惑と強引さ、各国の警戒、懸念も詳しく説明。米英、EUの西側諸国はいまこそインドを自陣に引き入れたいところですが、多国間の連携を避ける伝統は根強く、実利を最優先にどちらにもつかないモディ首相の狡猾な戦略に、世界が振り回されているのが現状ではないでしょうか。
ほかにも、ベトナム、南アフリカ、インドネシアなど、ウクライナ問題をめぐってインド的な動きをみせる新興国は少なくありません。GHQの緩い占領しか経験のない日本人にとって、列強の植民地から独立を勝ち取ったこれらの国々の動きは一見不可解ですが、いまが最も象徴的で分かりやすい局面なのかもしれません。(静)