ニューヨークで今月16日、ミュージカル「オペラ座の怪人」が最終公演を迎え、ブロードウェー史上最長35年にわたる歴史に幕を閉じた。1万3981回目の最終日の舞台は、初演時の出演者だった歌手のサラ・ブライトマンも登場した。

 醜く生まれ、母親から愛されず友達もなく、オペラ座の地下に隠れ住む孤独な怪人は、バックコーラスメンバーの少女に恋をし、彼女を主演にすべく、本番中にいくつもの怪現象を仕掛け、プリマ・ドンナを降板させることに成功する。

 少女は急きょ、代役に抜擢され、怪人の思惑通り名声を得るが、少女は初めて主演を務めた舞台の後、幼なじみの青年と再会し、恋に落ちる。それまで音楽の天使として彼女を導いてきた怪人は嫉妬に狂い、彼女と青年、劇場を攻撃する。

 怪人の悲嘆は怒りに変わり、安珍を追う清姫のように凄まじい怨念が燃え上がる。天使から悪魔への豹変は序から破へ、ドラマや映画で最も重要な展開だが、現実にも、このような異常な自己愛が生む悲劇が繰り返されている。

 親に愛されなかったのか、同級生にいじめられたのか、あるいは親が宗教法人に大金を献金していたのか。どんなに同情されるべき事情、正されなければならない問題があったにせよ、他人を傷つけていいという話にはならない。

 ニューヨークで歓喜のカーテンコールが繰り返されていたころ、和歌山市で現職総理を狙った爆弾が炸裂し、現場は逃げ惑う人たちの悲鳴に包まれた。容疑者は何も語らないが、安倍元首相を狙った青年に向けられた世論、報道の影響も小さくないと感じる。

 世の中の問題は改善されなければならないが、このような身勝手な暴力がそのきっかけになってはいけない。(静)

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