
今年のNHK大河ドラマ「どうする家康」でマツジュンの家康、岡田准一君の信長のやりとりを見ていると、久しぶりに読みたくなったので引っ張り出してきました。織田信長を主人公とした数ある小説群の中でも原点。幼い竹千代に泳ぎを教える少年・吉法師の場面などもあります。
物語 尾張の国、那古屋城下、旅姿の武士が行き合う子供らをつかまえては「城主のお子の吉法師様はおらぬか」と尋ね回っていた。あの阿呆なら若宮の森あたりで昼寝でもしているであろう、ときいて森に入ると、広っぱでおかしな相撲が繰り広げられていた。13歳ぐらいの少女らがまわしを着け、裸でぶつかり合っている。「見合って見合って」と号令をかけるのは、髪を茶筅まげにした15歳ぐらいの少年だ。勝った少女にはほうびの握り飯をやり、「いまは戦国の乱世じゃ、女子(おなご)といえども強うのうては叶わぬぞ。強い子供を産むにはな、母が強うなくてはならぬものだ。弱虫になるなッ」
武士は尾張の隣国美濃から、領主斎藤道三の娘の縁談相手である織田家の嫡男信長、幼名吉法師の人物を探りに来たのだが、そのおかしな少年が吉法師とあとで知ってあぜんとする。
信長に「大うつけ」と評判のあることを知り、美濃の蝮(まむし)と呼ばれる老獪な道三は娘の濃姫を、尾張一国を手に入れるためのスパイにするつもりで嫁がせるが、濃姫からは「我が夫は日本一の大将の器」だと手紙がくる…。
私は学生時代、本書全5巻を友人に借り、授業にも出ず三日三晩読み続けました。それから織田信長関連の本を15冊ばかり集めては読みふけったのでした。
話の展開がドラマチックなのは、信長さんの生涯自体がドラマチックなんだからまあ当たり前ですが、その読ませ方が実に見事。10代の頃の濃姫との出会いに始まり本能寺で最期を遂げるまで、49年の生涯がテンポよく鮮やかに語られます。
信長と美濃のマムシの会見、桶狭間出陣前の「敦盛」と熱田神宮参拝など有名な場面が細部まで生き生きと再現されるのが読みどころ。
何よりもまず信長が、ならず者のようで実は知略に富んだ暴れん坊の貴公子という捉え方で、とにかくカッコいい。
そして濃姫もカッコいい。夫に負けておらず、時に丁々発止とやり合いながら、根っこではしっかと信頼で結ばれている。手を携え、乱世に活路を切り開いていく、傑物同士の夫婦。
私が映画「レジェンド&バタフライ」に求めていたのはこれでした。帰蝶(濃姫)については史料がほぼ残っていないんだから、この濃姫像は山岡氏の見事な創作。映画でも帰蝶を病気になんかせず、本書のように本能寺で獅子奮迅の活躍をさせてほしかった。「どうする家康」では本能寺がどう描かれるか、楽しみです。(里)


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