
以前紹介した「荒地の家族」と同時に、今年1月に芥川賞を受賞した作品をご紹介します。世にも珍しい、「二人称」で書かれた視点が特徴的です。
物語 ショッピングセンターの喪服売り場に勤務する「あなた」。娘2人を育て上げ、1人は社会人、1人は大学生になった。この頃になって、2人の娘がまだ幼かった頃のことをよく思い出す。職場であるショッピングセンターのフードコートに毎日訪れる、少女のせいかもしれない。
少女は中学生らしく、学校が終わったあとの時間をずっと一人でフードコートの片隅座って過ごしている。ふとしたことから彼女と言葉を交わすようになった「あなた」。少女はいわゆるヤングケアラーで、幼い弟の面倒をみていた。一度話し始めると、とめどなく日々の苦労を語りだす少女。「あなた」は相槌を打ちながら、何度となく娘たちとの記憶をよみがえらせる。
ある時、下の娘が職場にやってきて、「お姉ちゃん出て行っちゃったよ、大きい荷物持って、家出だよ」と訴える。「あなた」は仕事を休んで、新幹線で迎えにいく…。
二人称の小説は、私には氷室冴子「アリスに接吻を」、倉橋由美子「暗い旅」に続き3作目でした。著者インタビューに、この人称について「子どもたちみたいに、私も誰かに見守られたい」という気持ちがあり、主人公を「あなた」と呼びかけるように書いてみたら、不思議と自分も誰かに見守られているような気がした、とありました。
「あなた」と15歳の少女の、どこか不安定で危うい関係性の変化が読みどころですが、私自身は、細やかな女性同士の関係性をつぶさに綴った文にあまり面白みを感じられず、ずっと忍耐心で読み進みました。すると最後の一文が心に響き、そこで私の中で作品の価値が上がりました。その一文でようやく、大層なタイトルと内容がつながります。「体いっぱいの水」は女性の生命感の象徴なのでしょうか。(里)

