本作品は、夏目漱石没後100年&生誕150年記念企画で生まれた作品です。身近な存在でありながらも人に従順な犬とは違う、ミステリアスな存在感と距離感を持つ猫ですが、人間はそんな猫たちとの生活を求め、いつの間にかその魅力の虜になってしまいます。夏目漱石をはじめ、多くの作家に愛されてきた猫。猫の視線から描く物語や人と人を繋ぐ猫の物語などが収録されています。一部の話を少し紹介します。

 「いつか、猫になった日」(赤川次郎)。気づいたら猫になっていた「私」。「私」は心中をして亡くなったと言われているけれど…。

 「妾は、猫で御座います」(新井素子)。バクテリオ・ファージ・T4という長くて難しい名前の猫。人はなぜ猫を飼うのか――。

 「吾輩は猫であるけれど」(荻原浩)かわいい絵のタッチの四コマ漫画。

 「惻隠」(恩田陸)。とある部屋に暮らす猫の同居人についてのお話。代わる代わる入ってくる同居人ですが、最後に入ってきた同居人が始めた出来事がきっかけで…。

 「彼女との、最初の一年」(山内マリコ)。野良のサビ猫が、芸大の学生に拾われ、一緒に暮らしていくお話。

 どの話も猫に対する愛情にあふれています。作家のスタイルがそれぞれ違うので、現代の流行作家の本を普段あまり読まないという人には、作家の個性を知るよい機会になるかと思います。短編ですが中にはかなり心に残る作品もあり、猫そのものの物語、猫と飼い主の関係、猫よりむしろ飼い主の物語――など、作品ごとに猫を捉える視点がいろいろあっておもしろかったです。猫好きなら、より楽しめる作品かなと思います。話に出てくる猫すべてが可愛いとかではなく、それぞれの作家さんが強みを発揮して文章を書いているため、読んでいてこだわりを知れる一冊になっています。(米)