
「ひとり日和」で芥川賞を受けた著者の最新作をご紹介します。淋しい人を主人公にしたほのぼの系の物語かと思わせておいて、結構とんでもない展開になっていきます。
物語 全国チェーンのクリーニング店「あさりクリーニング」の郊外にある一支店で働く優子。天涯孤独の身で、ただ一人の上司であるおしゃべりでしっかり者の主婦、馬宵(まよい)さんと2人で来る日も来る日も洗濯物を受け取っては工場へ送る仕事を続けている。
誰も引き取りに来ない衣類が一定量になると箱詰めにして「倉庫」へ送っているが、ある時「空間に余裕がない」と倉庫から送り返されてきた。そういう衣類を「はぐれんぼちゃん」と呼んでいる馬宵さんは「このはぐれんぼちゃん達、あんたが処分しといて」と優子に箱を押し付ける。一夜明けると、優子はなぜかそれらの衣類を残らず身に着け、着ぶくれて寝ていた。夢遊病かと焦るが、ことはそれだけで済まず、服に引きずられるように優子は外へ出る。同じように着ぶくれた「あさりクリーニング」の店員に次々と出会い、一行はどこにあるとも知れない「倉庫」を目指してひたすら歩く羽目になる…。
第1章「出発」、第2章「倉庫」の2部構成。芥川賞受賞作家の作品ということは純文学。にしてはずいぶん読みやすい平易な文体で、中身に入っていきやすい。と思っていたら、話はどんどんシュールになり、「倉庫」の章後半の怒涛の展開がなかなかすごい。「純文学じゃなくてエンタメ系だったのか」と思わせられ、あるいは若い読者を話に引き込むためのサービスかとも思いながら、結末にはしばしあぜんとしました。
主人公たちが紆余曲折を経てたどり着く「倉庫」(が生まれ変わった新施設)は、厳しい現実世界からはぐれがちな人々を無条件で受け入れ、100%の居心地よさを提供。しかし次第に、読み手にある違和感、なんともいえない居心地悪さを感じさせていきます。
主人公が「はぐれんぼう」の衣服たちを自分の分身と捉えているという認識がなければ、後半の行動は理解しがたいかもしれません。それが単なる社会正義を超えたやむにやまれぬ行動と了解した時、やはりこれは、人間の心のあり方の根源を焦点に据えて描き尽くそうとした純文学だったのだなと納得がいく気がします。
ここで描かれる不穏なユートピアは、しかし、誰か情熱を持った人が公正に適切に運営するならば、もしかしたら現在の「社会的孤立」に起因すると思われる犯罪や事件を減らす役には立つのかもしれません。複雑な読後感でした。
ネット書評では「長すぎる」との感想が散見されますが、文学の目的はストーリーを要領よく紹介することではありません。このボリュームは、著者の真摯な表現意欲の表れと私は解釈しました。(里)


