
本作は「オリンピックの身代金」「邪魔」「罪の轍」などで知られる奥田英朗の最新作。昭和から平成にかけて関東の2県にまたがり発生した、未解決の連続幼女誘拐殺人事件をモチーフとしたクライム小説です。
あらすじ 群馬県桐生市の渡良瀬川の河川敷で、首を絞められた痕のある若い女性の全裸遺体が発見された。殺人事件を扱う県警本部捜査一課と所轄の刑事たちは、妙な胸騒ぎを感じながら捜査を進めるが、今度は栃木県足利市の渡良瀬川の河川敷で同じような若い女性の全裸遺体が見つかった。刑事たちのいやな予感は的中、またも悪夢がよみがえる。現場周辺では10年前にも同様の手口の殺人事件が起きていた。犯人は過去の事件と同一人物か、模倣犯か。10年前、容疑をかけられながらも逃げきった男、当時の取り調べを担当した元刑事、娘を殺され、執念深く犯人捜しを続ける男、社会部1年生の女性記者、ちょっと変わった犯罪心理学者。それぞれが苦悩しながら互いにぶつかり合い、やがて数人の重要参考人があぶり出されるが…。
物語の下地となっているのは、1979年(昭和54)から96年(平成8)にかけて、栃木県と群馬県で5件発生した北関東連続幼女誘拐殺人事件です。いずれも被害者は10歳に満たない女の子で、うち90年5月に発生した女児誘拐殺人事件では男性が逮捕・起訴され、無期懲役が確定しましたが、その後のDNA鑑定結果等から男性は無実の冤罪被害者だったことが明らかになっています。
実際の事件はどれも未解決。この有名な冤罪事件(足利事件)がぼんやりと頭にありましたが、いま、現実にこの両県を流れる渡良瀬川の周辺で幼い子どもの誘拐・死体遺棄事件が起きれば、両県警の緊張はいかほどか。証拠を捜し、犯人を追う刑事たちのスリリングなドラマに、あらためて容疑者を特定、逮捕状を請求して身柄を確保、さらに起訴するまでの難しさを考えさせられました。単行本で約650㌻の大長編。最後まで先が読めない展開が面白く、刑事や被害者の家族、スクープを狙う記者たちの極上の群像劇となっています。
先月、この御坊から60㌔ほどの和歌山市で、女性の切断遺体が入ったキャリーケースが見つかりました。現場は本作と同じ川のそば。朝刊を見て事件を知ったとき、ちょうどこの作品を読み終え、余韻冷めやらぬ状態だったので、奇妙な偶然にゾッとして鳥肌が立つ思いでした。
いま、関東を中心とした広域強盗事件が大きなニュースとなっています。大金を騙し取る詐欺だけでなく、けがをさせられ、亡くなった人もいますが、被害者と家族の気持ちを考えると、捜査に当たる警察官と同様、怒りがこみ上げてきます。日本の警察が威信をかけて組織を壊滅させることを願うこのごろです。(静)


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