日本一の梅の里、南部梅林も3年ぶりに開園しています。2月のテーマは「梅」とします。今回は、近代日本文学の名作をご紹介します。

 「真実一路」(山本有三著、新潮文庫)

 「路傍の石」「米百俵」等で有名な著者の長編。これまで何度となく映画化、ドラマ化されています。ヒロインの一人、しず子が梅林でデートする場面です。

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 「春はまずヨシノ梅林から」

 という標語は、たちまち若いふたりの心を捕えてしまった。春はまずふたりから、とさえ思っているしず子と大越ではあるが、こういう甘い標語は、こういう甘い関係にある時に一番ぴたりとくるものらしい。(略)青梅近くになると、田んぼのなかやカヤぶき屋根の横に、白いものがかすみのように棚引き始めて、さすが梅の名を持つ在所という感じがしてきた。(略)

 桑の木のあいだに梅があるのは珍しい。遠くの方のは、桑畑の中に生えているのかどうか知らないが、山裾の青いものの間や藁屋根の上に白い花がぽちゃっと固まっているけしきは、なんとも言えぬ風情があった。梅の香に誘われて、あちらこちらをゆらゆら歩いていると、しず子はただ夢のようだった。