
直木賞受賞作の「銀河鉄道の父」が役所広司、菅田将暉出演で実写映画化、5月の公開へテレビCMがよく流れていますが、著者の受賞後第1作をご紹介します。
物語 時は幕末、所は風雲急を告げる京の町。剣の腕はからっきしの浪人、菅沼鉢四郎は、新選組による炊き出しの粥がびっくりするほどまずかったことから、新選組副長助勤の槍の名手、原田左之助と知り合い、入隊を勧められる。仰天して固辞するが、「まかない専門になるよう、おれが局長にいってやる」と説き伏せられる。確かに、働く妻と幼い娘のために主夫として三度の飯の支度を引き受ける鉢四郎は、向いているようで料理がうまく、好きだった。その妻と娘は、元治元年(1862)の「どんどん焼き」と呼ばれる京の大火で長屋を焼け出されて以来、鉢四郎とは別れ別れになっている。「伏見に行く」との妻の言葉が頼りだが、隊士たちの腹の面倒をみることになっては京を離れられない。
しかし左之助の言葉とは裏腹、土佐浪人たちのアジトと目される大坂のぜんざい屋に細作(スパイ)として潜入し、内情を探れと命じられ、「無理だ。絶対やられる」と死を覚悟する羽目に…。
私にとって幕末のヒーローとは数ある志士のうちでも断然、長州の快男児・高杉晋作。なので、新選組はあくまでも「敵!」なのですが、司馬遼太郎さんの「燃えよ剣」、NHK大河「新選組!」をはじめとしていろいろ幕末の小説やドラマに触れるうち近藤勇、土方歳三、沖田総司ら強烈な個性の面々に興味を持つようになってきました。
本書は、幕末物としてはかなり異色作といえるかもしれません。「新選組」と「料理人」という、意表を突く組み合わせがまず目を引きます。主人公はまかない方の菅沼鉢四郎、これは架空の人物。正面から新選組を描いた歴史物とは趣を異にし、切った張ったの世界が克明に描かれることはありません。
常に沸騰し続けているような物騒な世でも、人は毎日ものを食べなければならず、同じ食べさせるなら「体にいいものをおいしく食べてもらおう」と心を砕く人の存在は、「士道不覚悟」として粛清される者も多かったこの組織の中にあって、人が心を許す場となっていきます。
新選組をこんなトーンで描いた作品はおそらく数少なく、そういう意味では貴重な作。ただ、濃密で熱い激動の幕末はここにはなく、そうしたものを求める人には食い足りないかもしれません。
かといって、料理人としての極意が描かれるわけでもない。士道に生きる覚悟を持たずに新選組の毎日を至近距離から見る、ある意味読者の分身のような人物を主人公に配した、一風変わった幕末物として楽しめました。(里)


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