
「わしらは怪しい探検隊」などのシリーズで人気、「本の雑誌」創刊者としても知られる椎名誠氏の新刊をご紹介します。自身も陽性者となってしまったコロナの日々を、現代社会に多々思うことなど織り交ぜながら日記形式でざっくばらんに綴っています。2021年4月から2022年6月までの記録です。書き下ろしの「新型コロナ感染記」も併録。
内容 後期高齢者になろうと、執筆、移動と多忙を極める著者。2年目のコロナ禍に揺れる世間を横目にマイペースで仕事を続けるが、ふとんを運ぶ時に階段をすべり落ちて腰を圧迫骨折するなど、やはり年齢は体に影響を及ぼしているらしい。と思っていたら、6月にとうとうコロナ陽性になってしまった。意識不明になって気が付いたら病院のベッドで、身体に幾つもの管がつながれていた。40度近く発熱、記憶もまだらで一時はせん妄があったり呂律が回っていなかったりしたが、幸い無事に回復して2週間で退院できた。7月には1年遅れの東京五輪をテレビ観戦しつつ、味覚障害の逆で味覚が過敏になってウナギのタレが苦手になったり、金属音に過剰に反応するようになるなど後遺症らしき症状に悩む。
翌年、ウクライナにロシアが侵攻。「強引な戦争だ。プーチンはどうにかなってしまったのか」「ロシアとウクライナはいろいろと共通点がある。攻撃するロシアの兵らは祖国を爆撃しているような気持ちになったはずだ」。6月、78歳になる。「この頃は世の中全体が異常な方向にうごめいているような気がしてならない。コロナの影響だろうか。不安定な情勢だからだろうか。人間にストレスの袋みたいなものがあったら、それはもうみんな風船のようにパンパンで、ちょっと触れると弾けてしまう。負の連鎖みたいなものがここ何年か続いている」。
「インドでわしも考えた」など一連の探検物は読んでいなくて、私が読んできたのは「哀愁の町に霧が降るのだ」など、実録青春物。本書を読むと当時からのお仲間の沢野ひとしさんや木村晋介さんもお元気そうでよかった。
ひとの日記など本来は、よほど関心のある人のでなければ面白いものでもありませんが、この人は文章自体にどんどん読み進ませる軽快なリズムと力がある。本書は日記の部分だけでなく、コロナ感染の詳細な記録が興味深い。入院中、真夜中に道路から聞こえる信号の「通りゃんせ」のメロディーが妙に耳にさわり、不安と焦燥感をあおられて不眠に悩むのですが、あとで聞くとその地域では夜間に「通りゃんせ」など流れていないことがわかるという怪談めいたくだりにはゾクッとさせられます。やっぱりストーリーテラーだなと感じ入ったのでした。「本の雑誌」では「哀愁の町に何が降るというのだ」も連載されているらしく、単行本化されるのが楽しみです。 (里)


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