先月、ゲーム最新作が発売されたポケットモンスター(ポケモン)シリーズ。1996年の第一作発売以降、テレビアニメやカードゲームなどでも爆発的人気を博し、世界中で愛されるコンテンツなのは承知の通りだと思います。この本は生みの親である田尻智氏の半生やポケモン誕生までの道のりについて、インタビュー形式で収録されています。

 田尻氏が生まれ育ったのは東京都の郊外にある町田市。彼が少年時代を過ごした1960年代後半~70年代前半、町田市は都市開発が始まった頃で、まだ周りには豊かな自然が残っていたそうです。そんな都会の自然環境で育った田尻氏が夢中になっていたのは昆虫採集。何百種類とあるモンスターを捕まえ育てるのが醍醐味のポケモンは、昆虫採集から着想を得たといわれています。そして80年代、インベーダーゲームのブームをきっかけに、田尻氏はゲーム制作の世界にのめり込むように。

 ポケモンのすごいところは、ゲームだけのヒットにとどまらず、様々なメディアミックスでコンテンツを展開していったところ。街の至る所でポケモンを見かけますが、この本の中で田尻氏は「ゲーム以外のポケモンの世界観を維持するためのビジネスモデルを作ろうとした」と振り返っています。「ゲームクリエイター」としてだけでなく「経営者」としても類いまれな才能があったわけです。田尻氏が設立し、ポケモンのゲームシリーズを開発する「株式会社ゲームフリーク」は、元々は同人サークルから出発したそう。巻末には彼が手書きで書いたミニコミ誌「ゲームフリーク」創刊号や、ポケモン開発資料も収録され、今となっては大変貴重な歴史の一部を垣間見ることもできます。

 このほか彼の考えを形成した出来事なども知ることができ、この本はまさに「ポケモンファンの新約聖書」。半世紀以上愛されるコンテンツの源流に触れられる一冊です。          (鞘)