誰もが勝利を確信し、日本初のワールドカップ本選出場という歴史的瞬間を見よと、テレビにかじりついていたその時、イラクのショートコーナーからのセンタリングを頭で合わされ、まさかの同点ゴール。筆者を含め熱狂していたテレビの前のサポーターは全員、一瞬何が起こったか分からず絶句したことを今でもはっきり覚えている。1993年にカタールの首都ドーハで行われたW杯アジア最終予選。勝利目前のロスタイムの出来事、今でも語り継がれるドーハの悲劇である。何が起こるか分からない、一寸先は闇、泣き崩れ、茫然とする選手たちの姿は目に焼き付いている。

 あれから29年、今度は悲劇が歓喜に変わった。W杯カタール大会、グループリーグ初戦で日本がドイツを破る大金星を挙げたことは今更言うまでもない。筆者が最も印象に残ったのは、決勝ゴールを決めた浅野拓磨選手がインタビューに答えた言葉。「4年前から準備してきた。一日も妥協したことはなかった」。4年前は正メンバーに選出されず、悔しい思いを忘れることなくW杯というサッカー選手の憧れであり最高の舞台に向けて時間を無駄しなかった準備があったからこそ、本番でのあのプレーにつながったのだと、あらためて尊敬の念を抱いた。

 森保監督がドーハの悲劇の経験者というのもドラマチックだった。格上ドイツに快勝したのはまさに歴史的瞬間だった。2戦目のコスタリカ戦に敗れたのは残念だが、これがW杯の怖さであり、グループラウンドを突破することがどれほど簡単なものではないかの表れである。さあ大一番のスペイン戦はもうすぐ。勝利を信じて応援して、選手を後押ししようではありませんか。(片)