
バーを舞台に、文学談義の形をとって名作に表れた「文豪の真意」を探るという趣向の、ちょっと変わった短編連作をご紹介します。
内容 大学教授の曽根原は、気づけばバー「スリーバレー」に足が向く毎日。待っているのは女性バーテンダーミサキの笑顔とおいしいカクテル、意外と鋭い文学に関する質問。しかし会話に熱中していると必ず邪魔者が来る。若くてキザで曽根原と対立してくる男、宮田だ。
きょうも川端康成「雪国」や梶井基次郎「檸檬」、三島由紀夫「金閣寺」をネタに、文学論は真相究明のミステリーの様相を帯びる…。
私は「雪国」も「蒲団」も読んでいないけれどもそれなりに楽しめました。「蒲団」は実はラノベの元祖だという説、そこから発展して名作文学のタイトルをラノベ風に変える下りはちょっと面白い。「穴に落ちたら河童の国だった件」は芥川龍之介「河童」、「俺の彼女が十年後の今月今夜のこの月を覚えているはずがない」は尾崎紅葉「金色夜叉」、「親の仇を探し当てたら一人でトンネル掘ってたんで手伝っちゃいました」は菊池寛「恩讐の彼方に」…。
4編の中でも最もきりっとした構成で私が気に入ったのは「梶井基次郎~時計じかけのレモン~」。京都の丸善が一時閉店する時、店内に本の山を積み上げレモンを1個乗せて去るという、「檸檬」の主人公を真似る人が続出してニュースになりましたが、丸善は文壇、レモンは「檸檬」という作品そのものを象徴し「梶井はこの作品を引っ提げて文壇の頂点に立つつもりだった」という解釈は、梶井で卒論を書いた私にも新鮮でした。そして「桜の樹の下には」で美しい桜の下に埋まっている屍体は、当時の文壇で黙殺された「檸檬」である、と…。
どんなジャンルでも、普通と違う角度から切り口が鮮やかに開かれるとハッと目を奪われます。そういう楽しい驚きが次々飛び出す、本好きにはたまらない一冊かもしれません。(里)


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